プロフィール
俺の名前は、山川雅人。
中学2年生。学校では目立つほうでもなく、かといって地味なほうでもない。まぁ普通な立ち位置にいる。
中学2年生の時代
中学2年生の9月
運動会が終わり、少し落ち着いてきた時期だった。その日は、早く帰ったので母親と一緒に夕飯食べていた。
熊野沙紀とは、俺の幼なじみの女の子だ。
幼なじみと出会ったのは5歳ぐらいの時だったかな。
俺は、よく近くの公園で砂場で遊んでたんだけどは、ある日突然、熊野沙紀から砂を頭からぶっかけられた。いきなり砂を頭からぶっかけられたもんだから、俺は大号泣した。今でも鮮明に覚えている。
すぐに近くにいた幼なじみの母ちゃんが謝りに来て、幼なじみに怒った。けどまた近くで見ていたうちの母ちゃんが俺の頭を引っ叩いて「あんた、男の子なんだからメソメソすんじゃない!」って怒られた。今、思い返しても何故怒られたのかよくわからない。
その縁がきっかけで幼なじみとは仲良くなった。幼稚園は違ったけど公園が近所というのもあって、毎日一緒に遊んでた。めちゃくちゃ仲良くて、ほっぺにチューしたり、ラブラブだったらしい。
なんて言ってたと母親から聞いた。全然覚えてないだけどね。
小学校に入ると、ケンカ友達になった。
ちょっかい掛けて、追っかけっこするとかそんな感じ。ただ高学年くらいになるとお互いに異性を意識する感じになったのか、全然喋らなくなったけど。。。
幼なじみと俺はクラスも違ったから、学校来てないなんて全然気づかなかった。母ちゃんの雰囲気からして、体調不良で休んでいるわけではないことはわかった。明日、学校で確認してみるか。
翌日の教室
翌日、学校に行くと、熊野沙紀は学校に来てなかったみたいだった。
ちょっと気になったので、調べてみるか。その日は、選択授業の時間で、他のクラスメイトと一緒になることができる。なので熊野沙紀と同じ部活の友達で小学校からの同級生に会えたので、色々と聞いてみた。
学校でいじめられていたとは・・・。
しかし、いろいろと違和感があった。まさかあいつがいじめなんかで・・・?そんなわけない気がする。ただ事情がわかったからといって俺がしてやれることなんてない。なにより中学校に入ってほとんど喋ってないんだし、向こうが俺のことを友達って認識してるかすらわからないわけで。
数日後
俺は、熊野沙紀のクラスの担任に呼び出された。なので放課後、職員室に向かった。
と言うと、先生は少し嫌そうな顔をした。
とてもじゃないけど断れる雰囲気じゃなかったので、一応承諾した。俺は、帰りに幼なじみの家に行った。
数年ぶり?幼なじみの家へ
熊野沙紀の家に行くなんて、何年ぶりだろうか。
久しぶりに家のチャイムを押した。すると、熊野沙紀のお母さんが出てきた。
熊野沙紀の母ちゃん、だいぶ憔悴してた。なんか俺の顔見て泣きそうになってた。想像以上に深刻っぽい感じだった。
しばらくすると熊野沙紀がリビングに降りてきた。
熊野沙紀と、数年ぶりにまともな会話をした。
いろいろと、小さいころの思い出話で盛り上がった。熊野沙紀の母ちゃんは、わざと席を外してくれていたみたいだった。
気になる真相を聞いてみることにした。
熊野沙紀の母ちゃんが憔悴してたのはこれが理由か。頼れるはずの担任の先生から逃げられたら、打つ手がないし。
やっぱりなと思った。
この話を聞いたときから疑問だった。俺が思う熊野沙紀はこれくらいの事でへこたれるメンタルじゃなかった。いや寧ろ、子供の頃から超がつくほどのドSで男女年齢問わず喧嘩したら相手が泣くまでやめないような女だったからだ。
その日はとりあえず帰った。
特に、この問題の解決案があったわけではなかった。無責任になんとかしようなんて言ってしまったけど、幼なじみの熊野沙紀の寂しそうな顔を見たらなんとかせずにはいられなかった。
バレー部の夏川くんと対面
まずは、バレー部のエース夏川君から仲間に入れようと思った。
名前は知ってるけど、隣のクラスもあって、全然しゃべったことがなかった。ちょうど隣のクラスに仲いい奴がいたので、そいつから夏川くんに繋いでもらった。
とりあえず夏川くんは、味方になってくれた。翌日からは虱潰しに学年中のやつらに声をかけこんなことやめるように言っていった。
いじめの中心人物”さくら”
この問題は、さくら達を止めないと解決にはならない。
さくらは、不良のグループの中でもリーダー的存在で学校でも有名な子だった。結構、気が強くて、怖い雰囲気があった。ちなみに、俺はほとんどしゃべったこともなくて、俺の存在を知ってるかどうかも怪しい。
昼休み、階段付近でたむろしていたさくら達に話しかけに行った。
〇ねやバカなどいろいろ罵られて、一向に相手にされなかった。
仕方ないので熊野沙紀が子供の頃、俺にしてきたことを淡々と話し、あいつがどれだけ
ヤバい女かということを説明することにした。
見てわかるくらいに彼女たちの顔が青ざめていたのがわかった。多少効果があったと思った。
数日後
さくら達に声を掛けた何日か後だった。いつものように登校していると、熊野沙紀は何食わぬ顔で登校していた。
って聞かれたから話したことをありのまま教えた。直後後に、頭部をかばんで思いっきりどつかれた。多分殴られたのは小学生以来だった。
なんとか無事に解決出来てよかった。熊野沙紀に、笑顔が戻ったことでほっとした。
中学生3年~高校生時代
あの一件以来、俺と熊野沙紀はなんとなく仲良しになった。
高校も同じ高校に進んだが、別に付き合ったり二人きりで遊んだりすることもなかった。
お互いに付き合う相手ができて、たまに一緒に帰るとお互いの恋愛の近況報告をするってな感じ。大学は別々の学校に進むことになった。熊野沙紀は女子大に進んだ。
大学生時代
大学生活はとにかく楽しかったんだが、遊びすぎて稼いだ分消えてく始末…飲食店のバイトと派遣のバイトをやってたんだがもう少し食い扶持を増やさねばと塾講師のアルバイトも掛け持つことにした。いつしか熊野沙紀の存在も中学生に入った頃のように薄くなっていった。
塾講師のバイト
元々子供が好きだったし、塾講師のバイトは結構楽しかった。
チェーン展開しているようなところでもなかったから自由だった。そこに入ってから半年ぐらいたった時、ある女の子がアルバイトとして入ってきた。
名前は近藤美里。
年齢は同じで第一印象で可愛い子だなとは思った。背が小さくて、ほんわか系。童顔な顔立ち。目が合うと元気よく挨拶してくれたし、多分性格もいい子なんだろうな、なんて思った。
ただ塾のバイトは、学生の場合、意外と入れ替わりが激しいし、「あぁまた新しい人が来たんだなぁ」ぐらいの感じだった。
同級生の女の子
実際、一緒に働いてみると、真面目で良い子だった。
生徒にも明るく丁寧に接するし、中の人間にもとても気が使える。授業前の準備なんかも一生懸命やってるし、仕事に慣れてくると後から入った先生へのフォローなんかもしっかりしていた。別にそれだけで好きになるなんてことはなかったけど、やっぱり見た目が可愛いなんていうこともあって、多分目で追っちゃってたりはしたと思う。たまに目が合うとニコって笑ってくれて柄にもなく照れてしまったりもした。
急接近?
ある日、たまたま近藤美里さんと二人だけでラストのコマまで回すことになった。普段なら二人の内、一人は社員さんなんだけどその日は用事があるとかでアルバイトの俺達二人でやることになった。
彼女は高校生、俺は別の部屋で中学生向けの授業をやっていた。
授業が終わると先生が待機する事務室があったんだが、毎度中学生の授業となると悪ガキどもと授業終わりにくだらん話をしていたので、この日も事務室に戻るのは結構遅くなった。事務室に戻ると、机に突っ伏してる近藤さんがいた。
てっきり授業で疲れきってぐったりしてるのかと思ったんだが、どうやら違うようだった。おもいっきり鼻水すすってる音がしたからだ。どうやら泣いてたようだった。
塾の講師やってるとは、こういう親にあたることはよくあるけど、普段なら社員が対応してくれる。この日に限っては近藤さんが直接応対するはめになった。ちょっと可哀想だなと思った。
怒られたくらいで泣くなんて、やっぱり女の子だなぁとも思ったが、話を聞いてみれば、悔し泣きだったのか…これ。第一印象通り、すごく真面目な子なんだと思った。
近藤さんは、ちょっと驚いた表情だったけど、すぐに椅子から立ち上がった。
塾を出ると、二人で近くのチェーンの居酒屋に入った。
最初の一時間は愚痴を淡々と聞い。ひとしきり近藤さんの気持ちが落ち着くと今度はお互いの話を始めた。
彼女が地方出身だということをこの日、初めて知った。標準語でしゃべるから、ずっと東京出身だと思ってた。
この日は、それ以外に大学のこと、友達のことなど色々しゃべった。お互いのことを知って、打ち解けたきっかけになった。
まさかの展開
俺と美里ちゃんは、バイトが一緒になると、毎回帰りにご飯に行くようになった。ただ本当に友達として、付き合うでもなく多分心地良いんだと思う。
そんな感じがしばらく続いたある日、近藤さんがえらく酔っ払った。いつもならお酒飲んでニコニコっとするぐらいなのに・・・
まさか告白されるとは思っておらず、あまりにも驚き過ぎて、瞬間で何も考えずに断ってしまった。そのあと、何とも言えない変な雰囲気になり、解散した。その日から急激に美里ちゃんとは距離感が生まれてしまった。
断ってからのその後
断ってからの一ヶ月間、なんとか変な雰囲気をなくそうとしたけど全くうまくいかなった。美里ちゃんの方もそんな感じ、必要以上に明るく接してきたり、お互いちょっとやりづらくなってしまった。
でもそんな時、塾の社員さんから、二人で塾の子供向けのパーティーの幹事を任命された。
幹事の仕事は、大変で授業の終わりに催し物考えたりとかするし、必然的に二人での作業も増えた。苦労しながらも、パーティーは大成功した。子どもたちもかなり喜んでくれたし、そして俺と美里ちゃんの仲はこれを機に一気に縮まった。後から知った話だけど、社員さんが二人の進展しない関係をもどかしく思い、わざと二人を幹事に任命したらしい。
それから、二人でご飯行くとかだけじゃなく、映画館とか、遊園地とかデートをするようになった。
大学三年の夏休み、二人で行った花火の帰りに俺は美里ちゃんに告白した。
対応をしてしまったんだと思う。付き合ってもらえませんか?
美里ちゃんは、満面の笑みで応えてくれた。俺たちは、付き合うことになった。
母に見つかる?
美里と付き合い始めてからしばらくたったある日、美里と近くのショッピングセンターに遊びに行ってたところをうちの母ちゃんに見つかってしまった。
ウキウキな感じで話しかけてくる母ちゃん。
めっちゃめんどくさい人に見つかってしまった。絶望感に打ちひしがれる俺。そんな俺の様子を知ってか知らずか
なんて元気よく挨拶する美里。
母ちゃんが考えた我が家の家訓はいつも元気に挨拶するべしだったので、母ちゃん的には嫁さんをすぐ気にいったみたいだった。その流れで三人で飯食う羽目になり、挙句そのままうちに来ることにまでなった。
三人で家に帰れば何も知らないパンツ一丁の親父がリビングにいた。親父は完全にキョトン顏w
母ちゃんがなんていったら大慌てで退場。そして、お気に入りのワイシャツ来てから再登場した。
四人の会話はいたって普通だった。
母ちゃんは、なんか美里にいろいろ質問してた。親父は若い女の子と喋る機会が無いのか妙にデレデレしてた。結局、夕飯も食べて行ったんだが、みんなで楽しく過ごした。うちは子供が俺だけなんだが、本当だったら俺の下に妹がいるはずだった。生まれてすぐ死んでしまったんだけど、そういう経緯もあって両親共、美里が本当の娘の様に思えて嬉しかったんだと思う。
なんて言って、普通に喜んでた。
幼なじみからメール
それからまたしばらく経ったある日、急に幼馴染みからメールが来た。
⦅LINE⦆
俺は頭を抱えてしまった。
美里はほんわか系、幼馴染みはドSの一匹狼。こんな二人がはたして合うんだろうかと。
というので、不安を抱えつつ場所を変えて、三人で飲むことになった。
結論から言うと、この2人めちゃめちゃウマが合った、というか途中から女子会に俺が参加してるみたいな構図になってた。熊野沙紀が自分から人に連絡先聞くなんて本当に無いことだから驚いた。
美里のお姉さん乱入!!
付き合ってから半年ぐらい過ぎると、嫁さんが一人暮らしということにかこつけて嫁さんちに入り浸るようになった。一緒にご飯食べて、まぁやる事やって寝るという感じ。ある日の朝いつも通りにお互い下着姿で寝てたら、ふいに家のドアが開いて直後に怒鳴り声が聞こえた。
下着姿で正座してお姉さんに怒られる2人、服を着たかったけどそんなこと言える雰囲気じゃなかった。
嫁さんは下着姿のまま俺に飛びついた。
それを聞いたお姉さんは服を着ることを許してくれた。実際、美里とはすごく気が合うし、本気で結婚したいと思ってた。
社会人
楽しかった大学生活はあっという間に過ぎて大学を卒業した。
俺は普通の会社の営業に、美里は保険会社の営業になった。俺の方は、まぁそこまできつい仕事じゃなかったんだが、嫁さんはかなり辛そうだった。チャームポイントのほっぺはもうこけてしまいそうだったし、2人で会っていると無理に笑顔を見せているのがすぐにわかった。
俺は考えた。
こんな辛い顔をさせるくらいならいっそ結婚してしまえば良いんじゃないかと。もともと結婚願望強かったし、何より美里のこと愛してたし、お互いが社会人になって一年が経った時、俺は嫁さんにプロポーズをした。
美里はまた満面の笑みで応えてくれた。めっちゃダサいプロポーズだったけどね。
結婚後
結婚後、可愛い可愛い娘ができた。
名前は、「明日菜」にした。
生活は、厳しかったけど本当に幸せな時間だった。休みになると家族で出かけてたくさんの写真を撮った。明日菜の寝顔が可愛くて仕事疲れも吹っ飛んだ。こんな感じがずっと続くのが人にとって一番の幸せなんだと思った。嫁と娘のためなら、どんな事だって乗り切って頑張れる気がした。
明日菜が生まれてしばらくして俺の娘誕生祝いという程で中学の同窓会が開かれた。もちろん熊野沙紀も出席した。熊野沙紀は、一定の酒量を越えると厄介さんになる体質だった。怒→笑→怒→泣 みたいな感じで俺を含め周囲に絡みまくってた。相当酔ってたので、帰りは俺が送る事になった。何故か俺の家に熊野沙紀が来ることになり、それを美里に電話で伝えるとえらく喜んでいた。
家に着くなり泥酔状態で美里と喋る熊野沙紀、美里も楽しそうだった。一時間ぐらい経った時美里が不意に変なことを言った。
なんの脈絡もなく急に出た言葉だった。その時はからかわれてるんだと思った。
出張先で母から電話
数ヶ月後、俺が出張で一週間程家をあけることになった。
せっかくだし実家に帰ったら?と美里に言うと少し悩んだ後、それじゃあ行ってこようかなと娘を連れて田舎に戻る事に。
出張4日目の夕方、
宿泊先のビシネスホテルに戻っていた俺に嫁の母親から電話があった。
⦅電話⦆
自宅に帰宅
軽く状況を聞き、すぐに家に戻った。
家に帰ると、ベットで眠っているように見える美里がいた。どこか現実味がなくて信じられない気持ち、薄情かもしれないけど、美里の顔を見ても呆然とするだけだった。
話を聞くと、美里は実家のソファーで寝ているように死んでたらしい。
その日、美里と美里のお母さん、おばあちゃん、娘の四人で少し離れたデパートに買い物に行く予定だった。でも朝、急に美里が体調よくないから三人で行って来てと言ったらしい。美里のお母さんは、「それなら今日は行くのやめにしよう」と言ったみたいだが、「家で一人で寝てれば大丈夫だから三人で楽しんできて」と心配するお母さんを送り出したっていうことだった。で三人が帰った時にはもう遅かった。
美里の父親が若くして亡くなったのは心臓の病だったらしい。美里も子供の頃から、あまり心臓が強い方ではなく、出産の時もその辺が心配だったがなんとかその時は安産だったし、母子ともに健康だった。
一番悲しい日
通夜と葬式は嫁さんの実家でする事になった。
うちの家族から話を聞いた熊野沙紀は飛んできてくれた。通夜の前まで娘は何も分からずにいつも通りにしていたのだが、子供でもその場の雰囲気の異様さに気づくのか途中から大泣きしてしまった。美里のお母さんやうちの母ちゃんや俺がなんとか泣き止まそうとするんだが泣き止まない。いつもなら泣き疲れると眠るんだけどこの日に限っては本当にずっと泣き続けた。そんな娘を見て周りの人も泣いてた。
不意に熊野沙紀が娘を抱っこした。優しくあやすって言うよりもぎゅっと抱きしめる感じだった。不思議なことに娘は泣き止みしばらくすると寝てしまった。
葬式は無事終わった…..
嫁のいない家に帰宅
数日を置いてから明日菜を連れて自宅に戻った。うちの母ちゃんも家に来てくれた。
夜になると
と言い、と明日菜を実家に連れて行った。
一人になって部屋の中を見渡した時、急に涙が出てきた。
毎日、疲れて家に帰ったら、
と笑顔で迎えてくれたあの笑顔。
一緒にバラエティ見ながら、笑いあった日
ドラマを一緒に見て、感動して泣いた日
明日菜と美里と3人で休日で出かけた日
美里とは、もう二度と会えない、しゃべれない、あの笑顔をもう見れないだって・・・
こらえようとしても止まらなかった。
情けないぐらいわんわん泣いた・・・今まで生きていた中で一番泣いた。。。。
半年後
美里のお母さんから娘を引き取りたいという話が来た。大変なのはわかっていたが、美里の忘れ形見をちゃんと育てようと改めて決意し、断った。美里のお母さんも、わかってくれた。俺は美里と暮らしていた家を引き払って実家の近くに引っ越した。保育園に預けるくらいならうちで面倒見るといってくれた両親に甘えた形だった。
数年後
うちの母ちゃんがガンになった。
治る見込みは充分にあったが、長期の入院、その後も再入院が必要でとても娘を見ていられる状況ではなくなった。今度こそ保育園しかないかと思った時、熊野沙紀から電話があった。
実は、何度か熊野沙紀から手伝ってあげるという話があった。めちゃくちゃ有難い話だが、いくら何でも悪いと思ってずっと断ってた。
嬉しいことに明日菜は、熊野沙紀とお母さんに懐いた。2人も娘をとても可愛がってくれた。幼稚園に短時間でも行くようなると迎えもやってくれた。甘えすぎだとは思ったが本当に助かった。休日ぐらいは、父親らしい事してやろうと明日菜と一緒にいることにした。女の子っぽいところに行く時には、熊野沙紀も付いてきてくれた。
中学の同窓会
また中学の同窓会が開かれる事になった。
最初は明日菜のこともあるし、行く気が無かったのだが、どこからか聞きつけた熊野沙紀の母ちゃんに「たまには飲んできなさい」と言われたこともあり出席することにした。
みんな知っているだろうけど、不思議なぐらい美里の話には触れなかった。気を使ってくれていたんだと思う。なんか変な空気だったけど、その雰囲気をぶち壊すかのように熊野沙紀が酔っ払った。周りに絡みまくる絡みまくる。俺もバンバン叩かれまくった。そのうち熊野沙紀は酔いつぶれた。
その会には、中学時代バレーボール部のエースだった夏川くんもいたんだが、彼が俺に突然話しかけてきた。ちょっと酔ってる様子だった。泥酔して寝に入ってる熊野沙紀を見ながら夏川くんが言った。
なにをわけわからないことをと考えていると夏川くんはまた続けた
ここまで言うと別の席の女の子に呼ばれたイケメンは俺の横から離れた。
飲み会が終わり、泥酔した幼馴染みをおぶりながら幼馴染みの親友”泰葉”と三人で帰った。
泰葉ちゃんも酔っ払っていたのかいつもより少し饒舌だった。話す内容といえば、中学の頃の話、幼馴染みの話、俺の子供の話ぐらいだったけど。
泰葉ちゃんとの分かれ道、ふと彼女は立ち止まると俺を見て呟いた。
熊野沙紀は、すごく不器用だけど優しいやつなのはわかってた。
娘とママ
この同窓会の後頃になるとうちの母ちゃんは完全復活していた。
明日菜も見てくれるようになり、熊野沙紀の家に明日菜が行くのはたまのお泊まりとかのみになった。熊野沙紀の家でのお泊まりから明日菜が帰ってきた夜、娘が急に泣き出して止まらなくなる日があった。
いつもなら泣き止むアンパンマンを使ってもなかなか泣き止まない。どうしようかと頭を抱えていた時、幼馴染みからの電話がなった。
⦅電話⦆
近所ということもあって2、3分で幼馴染みはやってきた。なんとも複雑なことに熊野沙紀がやってきた途端、明日菜は泣き止んだ。それからすぐに疲れたのかしばらくすると寝てしまった。それを見て早速帰ろうとする熊野沙紀になんだか悪い気持ちになった。
なんて言って引き止めた。
熊野沙紀と二人で飲むことになった。
いつも通りの軽口の叩き合いだった。
でも、俺のひょんな一言で熊野沙紀の雰囲気が変わった。
そう言うと熊野沙紀は下を向いたまま、肩を揺らしながら涙をボロボロはがし始めた。俺はそんな熊野沙紀に、戸惑って、何も声をかけることもできず、部屋の中は静まり返っていた。
不意に幼馴染みが立ち上がった。
そういうと熊野沙紀は逃げるように家を出て行った。
親父と大喧嘩
週の土曜日、珍しく親父から「すぐに実家に来い」との電話があった。実家に戻りリビングに入ると親父と母ちゃんが真剣な表情で座っていた。一緒にいた明日菜はすぐに母ちゃんが別の部屋に連れて行った。
そう言い終わると、親父はものすごい形相をして俺の顔面を殴った。あまりにいきなりすぎて何が何やら訳がわからなかった。
自慢じゃないが、生まれて初めて親父に殴られた。
殴られた痛みなんか忘れて、この言葉がすごく俺の心に残った。
その日の夜
熊野沙紀が家にやってきた。
この前、変な雰囲気で帰ったお詫びだとビール数本とおつまみを持って。
明日菜は熊野沙紀が来たことでテンション最高潮、アンパンマンのチョコレートを貰って興奮の坩堝だった。明日菜が眠り、熊野沙紀と二人での晩酌の時間になった。
この時、親父のあの言葉が頭の中に浮かんだ。
情けない話だけど、今のの俺には精一杯の向き合いだった。
この会話から、熊野沙紀と少しの間距離ができた。お互いに気まずさを持っていて、1日2日では修復できなかった。それでも半月もたつと以前と同じような間柄には戻れていた。
ママとお母さん
少し経ったある日、また熊野沙紀がうちに遊びに来た。明日菜はテンション最高潮だった。マサイ族並みのジャンプで幼馴染みを歓迎してた。幼馴染みもいつも通り娘にハグして嫁似のほっぺたに頬ずりしてた。
しばらく三人で人形遊びをして、明日菜がハンバーグ食べたいと言ったから夕飯に近くの洋食屋へ出かけた。明日菜は、熊野沙紀がいる上に大好物のハンバーグを食べるという幸福感からか、ハンバーグを一口食べては幼馴染みに抱きつき、また食べては抱きつきを繰り返していた。
と注意しても明日菜は、なかなかやめない。
熊野沙紀が注意すると一発で言うことを聞いた。俺は、「あぁ、やっぱり父親としてまだまだダメなんだなぁ」と感傷に浸っていたその時、明日菜がとんでも無いことを言った。
その場の空気が一瞬止まった、言われた熊野沙紀も驚いて何も返事が出来ない状態だった。
俺は明日菜が私のママはどこにいったのと聞かれた時の言葉で返す。
俺が答えに窮しているとさっきまで動かなくなっていた幼馴染みが急に笑い出した。
熊野沙紀の急激なテンションの上がり具合に、今度は俺と明日菜が驚いて黙ってしまった。とてもじゃないけど、冗談も返せなかった。洋食屋からの帰り道、熟睡状態の明日菜をおぶり三人で歩いている時、熊野沙紀がふとさっきの話に戻った。
唐突な話だった、でも迷いはなかった。
美里に続き2回目のプロポーズ。街灯の明かりぐらいしかなひっそりとした近所の見慣れた道だった。
ふと気づくといつの間にかおぶっていた娘が起きていた。寝ぼけているようだったが、「お姉ちゃんがお母さんになってくれるってさ」と話すと嫁似のほっぺたを両手で挟んではにかんで、また眠ってしまった。
結婚報告
翌日、互いの両親に挨拶に行った。
熊野沙紀の両親は意外なくらいにあっさりと受け入れてくれた。
続いて、俺の家にも挨拶に行った。
母ちゃんは、心配してたようだが、熊野沙紀の「はい」の一言に納得した様子だった。
って言いながら頭を下げていた。
美里の家に報告
さて俺にはもう一つ話をしなければならない家族がいた。美里の家族だ。
⦅電話⦆
電話をかけると、美里のお母さんはとても喜んでくれた。
そして日曜日、俺は明日菜と熊野沙紀と三人で美里の墓参りに行ってきて手を合わせてきた。明日菜は、小さな手を合わせながら美里に一生懸命語りかけていた。熊野沙紀も手を合わせてただずっと目を瞑っていた。
二度目の結婚
俺は、人生二度目の結婚をすることになった。
美里への気持ちは今でも変わらないが、一方で確かに熊野沙紀に好意を持っていたし、熊野沙紀なら明日菜を本気で愛してくれると思ったから。
今週の月曜日から金曜日まで、沙紀と明日菜の2人で美里の実家に行くらしい。沙紀曰く、「美里ちゃんの育ったところを見たいんだ」と。美里のお母さんの厚意で二人とも家に泊めてくれる事になった。俺は仕事があるから行けなかったけど、毎晩明日菜から電話がかかってくる。久々に田舎のおばあちゃんに会えて嬉しいんだと思う。
俺は、今、とても幸せだ。